紙の上で起きている動作を分解する
プリントに向かうとき、手は一度に複数の動きをしています。鉛筆を持つ、もう片方の手で紙のふちを押さえる、ペン先をマスの中に収める、線をたどる。この4つは別々の動きで、プリントの種類によってどれが多く使われるかが変わります。ナンプレは「マスの中に数字を収めて書く」動きが繰り返され、点つなぎは「線をたどる」動きが連続します。
紙を押さえる手は、書く手より動きが少ない分、疲れていても気づかれにくい手でもあります。1枚を書き終えるまでの間、押さえる側の手にも力が入り続けていることを、渡す側は覚えておくとよい点です。書く手の側も、マスの中に収める動きと、線を止めずにたどる動きとでは、ペン先にかける力の入れ方が変わります。
紙を配る前に、この4つのうちどれを相手に求めることになるかを確認しておくと、机の準備や道具の選び方も決めやすくなります。以下は、この4つの動作を整えるための具体的な項目です。
机と紙の置き方
紙は、利き手側にペン先を動かせるだけの余白があるかを確認して置きます。本文は紙の端から20mm内側に収めているので、ふちに近い部分には文字も罫線もありません(組み方の詳細は問題・線画の作り方にまとめています)。この余白部分を、紙を押さえる手の置き場所として使えます。
机の高さも動作に関わります。ひじが机の面より下がりすぎていると、紙を押さえる手にも書く手にも余分な力が入りやすくなります。車いすのまま机に向かう場合は、机の下に脚が入るだけの高さがあるかを見ておきます。紙を机に対してまっすぐ置くか、少し斜めに傾けて置くかは、利き手や書きやすい角度によって変わるので、決まった向きはありません。線をたどる動きが中心のプリントでは、紙を斜めに置くほうが手首を無理に曲げずに済む場合があります。
紙が机の上で動いてしまうときは、机と紙の間にゴム製のすべり止めシートを敷く、紙の下に下敷きを足して硬さを出す、クリップボードで紙の上端を留める、といった方法があります。どれも紙を固定するための工夫で、動作そのものを変えるものではありません。
光の向きも見ておきたい点です。窓際の席では、光が斜めから紙に当たると罫線の影がつきやすく、マスの区切りが見えにくくなることがあります。紙の向きだけでなく、光がどちら側から入っているかも合わせて確認しておくと、置き方を調整しやすくなります。
道具
鉛筆は、六角軸の細いものだけでなく、三角軸で握りやすくしたものや、軸を太くしたものもあります。握る力が入りにくいときは、軸の太いものに替えると持ちやすくなることがあります。芯の濃さも選べて、濃いめの芯は軽い筆圧でも線がはっきり出ます。
シャープペンシルは芯が一定の太さで出続ける道具ですが、力を入れすぎると芯が折れやすくもあります。木軸の鉛筆は芯そのものが太く、折れにくいという違いがあります。指の位置を安定させるためのゴム製グリップを軸に取り付ける使い方も、介護の現場で見られます。
消しゴムは、書き直しが多くなりそうな種類のプリントでは、大きめで持ちやすい形のものを近くに置いておきます。下敷きは、紙の下に硬さを足すだけでなく、机の木目や凹凸が線に響くのを防ぐ役目もあります。道具は多く揃えるほど良いわけではなく、そのプリントで求める動作に合わせて必要なものだけを用意します。
種類ごとに動作が違う
プリントの種類によって、手に求める動きは違います。点つなぎは、番号の順に線を引き続ける動きです。ぬりえは、輪郭の内側に鉛筆や色鉛筆で面を塗る動きです。ナンプレは、空いたマスの中に小さく数字を収めて書く動きです。迷路は、通路の幅の中で線を連続させて進める動きです。機能訓練向けナンプレは、盤面の周りの余白を書く動作にあわせて配置していて、高齢者向けナンプレとは版面の狙いが違います。
どれが向くかは、線を引く動き・面を塗る動き・数字を書く動きのうち、どれを相手が続けやすいかで選びます。線をたどるのが得意でも、マスの中に小さく文字を収めるのは別の動きなので、両方が同じように続けられるとは限りません。1種類に決めつけず、様子を見ながら別の動きのプリントに替えてかまいません。
同じ回の中で、書く動きから塗る動きに替えることもできます。動きの種類を替えると、同じ指の同じ関節を同じ角度で使い続ける時間が短くなります。何をどの順で渡すかに決まった型はなく、その場の様子を見ながら組み合わせて構いません。
途中でやめてよいという設計
プリントは、1枚を最後まで終わらせることを目的にしなくてかまいません。数字を書く動き、線を引く動き、面を塗る動きのどれであっても、続けられたところまでで区切ってよい、という前提で用意しています。
盤面やマスが多く残っていても、その日はそこで終わりにして、続きは次の機会に回すという使い方ができます。1枚を配るときに「最後まで」と決めてかからず、動作を何回繰り返せたかという見方で区切ると、途中で止めることへの気まずさも減ります。どこまで進んだかが分かるように、区切った位置に軽く印をつけておくと、次に渡すときにその続きから始められます。
職員が判断してよい範囲と、そうでない範囲
紙の種類・マスの大きさ・道具の組み合わせをどれにするかは、職員が現場の様子を見て決めてよい範囲です。このページに書いた机の高さや道具の選び方も、その場で調整してかまいません。
一方で、身体の状態そのものにかかわる判断——どの動作をどこまで行ってよいか、続けることが体調にどう関わるか——は、このページでは扱いません。判断に迷う場面が出てきたら、その場で職員だけで決めず、医療職に確認してから進めるという選択も、職員の判断の範囲に含まれます。紙の選び方や置き方の工夫が、体調や機能の判断に代わるものではないことを前提に使ってください。